これは臨床上の必要から自然に発見された方法です。
これらの鍼のうち、現行の法規で使えないものは、ヒ鍼や鑱鍼、外科医の使うメスのような鍼くらいで、その他の鍼は現在でも臨床で使用され、効果を上げています。
柳谷素霊は九鍼をその使い方から三種類に区別しています。
第1類 刺入しない鍼、円鍼、鍉鍼
第2類 皮膚を破る鍼、ヒ鍼、鋒鍼、鑱鍼
第3類 深部に刺入する鍼、大鍼、長鍼、員利鍼、毫鍼
このように一応の分類はできますが、鍼はもともと皮膚や皮下に刺激を与えるものなので、この三種類が厳密に区別されることはありません。
例えば、皮膚を破る鑱鍼が、現在関西地方で小児鍼として「カキ鍼」と呼ばれて使われていることがあります。
1.円鍼(員鍼)
1)鍼の形
霊枢の九鍼十二原には「員鍼は長さ一寸六分で、卵形のようにして肌肉を傷つけず、気を写す」と記されています。
現在使われる円鍼は、金属の円筒の一端に擬珠がつき、尖端が少し鋭利になっている形です。
2)実技
円鍼の実技には、補的運用と瀉的運用があります。
多くの場合は擬珠の尖端で接触的刺激を与えます。
時には基底部で押さえたり、側面でなでたりすることもあります。
①補的運用法
10分間に約30回の速さで、強くせず皮膚に衝突的刺激を与えるか、基底や側壁でなでます。
②瀉的運用法
10分間に約60回の速さで、やや強めに皮膚に白い痕が残る程度の刺激を与えます。
時には小児鍼のように引っかくこともあります。
③応用
補的または瀉的方法は、筋肉の間にたまった気の滞りを取り除くために使います。
多くは症状に応じた治療に使われます。
抜鍼が難しいときの副刺激法や、抜鍼後の残る感覚を消す目的にも使います。
神経痛、急性リウマチ、けいれん、麻痺、しびれ、かゆみなどの異常感覚のある部分に施術します。
2.鍉鍼
1)鍼の形
古典には二つの形が記されています。
《類経図翼》では鍼柄と鍼体が同じ材質で、鍼体の先端が研磨され尖っています。
《古今医統》の図では、毫鍼のように鍼先に小さな露滴のような部分がついています。
昭和銀鍼はこの形に作られています。
鍼師の伝える鍉鍼は《類経図翼》の図のように鍼先がついています。
香港、台湾、フランスで見た鍉鍼も鍼先がついています。
霊枢九鍼十二原には「鍉鍼は長さ3寸半で脈を按し、気を取り邪を出す」と記されています。
霊枢官鍼篇には「病脈で気が少ないときは鍉鍼で井栄分輸穴に取る」とあります。
古今医統には「脈気が虚少なものは鍉鍼がよい」とあります。
これにより鍉鍼には刺す鍼法と刺さない鍼法があることがわかります。
どちらも脈気の虚少を目的としています。
2)実技
刺さない鍉鍼の実技は、まず穴処に爪を立て、爪に沿って鍉鍼を立て、軽く刺しながら徐々に強めます。
これを爪法と呼びます。
目標は軽い気の循行です。
多くは鍼の響きや有感覚として被術者に感じられます。
刺す鍼法でも同じです。
脈気の虚少に刺して邪気を出し、正気を漏らさないようにします。
3)応用
古法では虚に用います。
麻痺、かゆみ、貧血、手足の冷えに使いますが、神経痛、けいれん、異常感覚にも用います。
刺さない鍉鍼は便利で、フランスにも類似の鍼があります。
徳川時代の鍼師の伝える鍉鍼は刺す鍼法で、中国や朝鮮でも使われました。
刺入方法は爪法や撚鍼法でよく、気血を壊さず正気を漏らさないようにします。
刺入時間は実際に3〜4分程度です。
多くは留置鍼にします。
特に小児の病気に効果があります。
3.ヒ(金+非)鍼(鈹鍼)
1)鍼の形
霊枢九鍼十二原には「長さ4寸、広さ2分半、法を劔鋒に取る」と記されています。
今日の外科医が使うメスのようなものです。
不動明王の剣のように、柄がついているものもあります。《古今医統》。
柄がなく、鍼柄と呼ぶ部分から、幅2分半で剣先になっているものもあります。《類経図翼》。
いずれも鍼先がメスのように鋭利で、切開に適しています。
2)実技
使い方は外科医がメスを使う方法と同じです。
ただし切るというよりも、関西方面では、この小形の鍼を小児鍼として使う臨床家があります。
この場合、他の小児鍼と同じように、皮膚をわずかに血が滲む程度に浅く刺すものと、刃先を横にして引っかくものがあります。
前者は瀉法的で、後者は補法的に用いられます。
3)応用
霊枢九鍼十二原には「陰と陽と別れ、寒と熱と争い、両気相博って、合して癰膿をなす。故にこれを治するにヒ鍼を用いる」と記されています。
大膿を取り、癰膿を破って膿血を排出するために用いられました。
また時には瀉血にも使われました。
《霊枢・終始篇》には「重舌は舌柱を刺す、鈹鍼を用いる」とあります。
《刺絡血正誤》には「疥癬や臁瘡など皮膚の瘡毒は、発して痒いところに鈹鍼を用いて軽く瘡の上を縦横に刺して血を出し、膏薬をつける。これを数回行うと治る。痒い部分は浅く刺す。結びがひどく硬くなった場合は深く刺して取る。膿に化した場合はよく熟したものを取る」とあります。
以上のように、外科刀のように切開するのではなく、刺す鍼です。
形態や用途は現行法規で禁じられる心外科刀に類似するため、現代ではほとんど使われていません。
4.鑱鍼
1)鍼の形
霊枢九鍼篇には「法を巾鍼にとる。末を去ること半寸、軽く鋭利にする。長さ一寸六分、頭を大にする」とあります。
鍼の形は《古今医統》と《類経図翼》で異なります。
《類経図翼》の形は、婦人の和裁に使う筋立てヘラのような形で、握る部分が厚く丸くなっています。
《古今医統》の図では両刃小刃のような形です。
徳川時代の医師が伝えたものは《類経図翼》の形で、裁縫のヘラのような形です。
関西ではウサギ鍼と呼び、小児鍼として用いられる形もヘラのようです。
2)実技
この鍼は深く刺すためには使いません。
《霊枢九鍼篇》には「熱の頭身にあるものを主る。深く入れず、陽気を去り瀉す」とあります。
浅く刺すための鍼です。
3)応用
浅く刺して皮膚の邪気を取り、瀉法の目的に用います。
《霊枢官銀篇》には「病いが皮膚にあって通常の場所にない場合は、鑱鍼で病所に施す。ただし皮膚の白い部分を取らない」とあります。
従って主な応用は瀉法です。
A 第1類、瀉的応用
鑱鍼本来の使い方として、皮膚を浅く刃で切るようになでます。
表皮に筋を立てる程度です。
白線ができることもあります。
時に血が滲むこともありますが、過ぎると問題です。
また刃先で皮膚に軽く敏速に衝突様の刺激を与えることもあります。
この方法は小児の夜泣き、夜驚症、神経異常亢奮、頭痛、歯痛、上衝、赤眼、肩こり、鬱滞、充血、炎症の初期、神経痛などに用いられます。
B 第2類、補的応用
鑱鍼の柄や円形の部分、刃を立てず横にして皮膚を摩擦する方法です。
この方法は虚弱体質、小児の消化不良、疳虫、神経衰弱、異常嗜好、発育不良、不眠症などに用います。
5.鋒鍼(三稜鍼)
1)鍼の形
霊枢九鍼十二原には「鋒鍼は長さ1寸6分、三隅を刃とす」とあります。
《九鍼論》には「鋒鍼は法を絮鍼に取り、身を筩にし、末を鋒にす」と記されています。
つまり、現在の三稜鍼のことです。
瀉法や瀉血に適するように作られています。
昔から正確に三稜に刃をつけたものと、扁平三稜、つまり一面が広く他の二面が狭い形のものがあります。
日本の医師が用いる瀉血鍼は扁平のものが多く、フランスの三稜鍼は正三稜形です。
自動三稜鍼も正三稜形のものが多いです。
しかし臨床上は、尖端があまり鋭利でない扁平三稜鍼の方が痛みが少なく、創口も深くならず、手技で鍼口を大きくも小さくも、浅くも深くもできる便利があります。
特に初心者には適しています。
2)実技
三稜鍼を行う場合の鍼の持ち方や手指の扱いは次の通りです。
鍼は刺手の中指と示指および親指でつまみます。
鍼尖を中指頭に当て、鍼柄部を示指の中節腹上に当て、親指腹で鍼体を押さえます。
親指は中指と示指の間に位置させます。
深く刺す場合は鍼尖を中指頭のところに出し、浅くする場合は引っ込めます。
創口を小さくする場合は刃の二等辺の稜を中指頭に接し、大きくする場合は三稜鍼の最も広い面を中指頭腹に置きます。
さらに大きくする場合は広い刃の面と狭い刃の面の境の稜を中指頭に位置させ、中、示、親指で固定します。
鍼がぐらつかないようしっかりつまみます。
皮膚を傷つける場合(瀉法、瀉気)や瀉血の場合でも、鍼尖を皮膚に垂直にいきなり刺すことはありません。
いずれの場合も中指頭を皮膚上で敏速に回転させたり、瞬間的に擦過させたりします。
後者は《跳鍼之法》と呼ばれます。
前者の方法が通常用いられます。
A 瀉法の仕方
これは血を出す目的ではなく、気をもらすために行うものです。
鍼尖を真皮や血管まで刺さず、皮膚に刺す手技です。
三稜鍼の持ち方は前述の形でよく、血が出ないように手早く施術します。
刺鍼後は揉撚を行いません。
B 瀉血の仕方
まず、瀉血部より心臓側を木綿やゴムで緊縛します。
上肢や下肢、頭部(首)、陰茎(根部)など部位によって太さを変えます。
縄や紐は使わず、木綿が最適です。
これは刺鍼の効果を高め、安全に行うためです。
被術者の姿勢は場所によって直立、座位、伏臥位、仰臥位、側臥位などをとります。
準備ができたら、刺す手を決め、三稜鍼を把持固定します。
次に被術者に口中に冷水を含ませ、力を入れさせます。
緊縛された部分は緊張します。
刺点に向かって三稜鍼を持った刺手を敏速に瞬間的に回転刺します。
この手技は一瞬で行わなければ被術者は痛みを感じます。
終了後、口中の水を飲ませ力を抜かせ、緊縛を解き血流が正常になるまで放血します。
場合により吸玉や吸角を用いることがありますが、血が出ないのに無理に行ってはいけません。
血が出ないからといって更に刺すことも禁止です。
施術前後は必ず十分に消毒します。
C 小児鍼として使う場合
三稜鍼を小児鍼として用いる場合があります。
関西ではカキ鍼や刃鍼と呼ばれます。
尖端で皮膚に接触的刺激を与えたり、皮上を弾くように操作します。
血が出るほど行うのが瀉法、出ないものを補法と呼びます。
3)応用
古典では痼疾の発現、熱の移行、経絡痼痺、出血、癰熱に用いると記されています。
《鍼道発微》には「三稜鍼は血絡に用い、悪血の滞り、痛みや痒みを治す。刺して血をもらすと病はたちまち治る。血毒が集まれば刺して出すと効く。血絡は体中にあり、胸腹から四肢に散る。盛んに張った濁った血は三稜鍼で刺す。太く弾くような血は濁血、柔らかい血は精血である。壮年者は1合を標準とし、結がひどければ4〜5合も可。刺絡は患者の心が安定しているときに行う。心に疑念があれば刺してはいけない」とあります。
《方輿輗》には「痧に青筋や紫筋が現れる場合、必ず鍼で刺し毒血を取り去る。その後、薬を用いる」と記されています。
間中喜雄博士は「痧病は毒血を取り除くことで治す。瀉血により滞りが減り、脾の作用を刺激して新しい血を作り、局所のリンパ液の滞りも解消する。さらに皮膚内臓反射を促して転調、消炎、鎮痛、活性化の作用をもたらす」と述べています。
刺絡に関しては『刺絡治療法』(丸山昌郎、工藤訓正著)が詳しいです。
用例
①腫物
すべての腫物には委中、尺沢から血を出します。
あるいは百会から血を取ります。
コリのある場所は員利鍼で多く刺し、気をもらせば自然と治ります。
②淋病
委中や足の指の間を刺して血を出します。
③青筋(はやうちかた)
急に悪血が上り、一時的に危険なことがあります。
三稜鍼で百会、印堂、天柱、風池、肩背など刺して血をもらします。
また員利鍼で手足、徹腹、章門、気海を刺します。
④痘疹(ほうそう、はしか)
少しずつ発疹した時に悪血を出します。
三稜鍼で委中を刺します。
百会を軽く刺して血を散らすこともよいです。
⑤脚気
血絡があれば三稜鍼で血を出します。
⑥木舌
舌柱の絡を刺して血を出します。
⑦眼病
血がなければ大椎の辺を見ます。
血が凝っていれば刺して多く癒します。
女子の慢性眼疾患は、項背の筋に沿って数本刺すと改善します。
⑧小児原因不明の発熱
爪端穴や手足指の分かれ目から瀉血すると効果があります。
4)主な瀉穴とその効果
穴の場所から瀉血することで、それぞれ効能があります。
①尺沢穴
尺沢の瀉血の準備は一般的な瀉血の心得と、被術者の姿勢や心構えを整えます。
被術者は座位で手に力を入れさせるため、丸竹(洗濯竹程度の太さ)のものを握らせます。
術者は絡結のある部分をよくもみ、結の部を確認して刺鍼の目標とします。
血を止めたい場合は、①被術者の握る力を抜かせ、②緊縛をゆるめると血流が遅くなります。
さらに出血を促す場合は、被術者に再び力を入れて丸竹を握らせます。
主な効能は、頭痛が続き、目眩や歯痛がひどく、肩や腕まで痛む場合に適します。
また上肢が重く挙げられない、痺れて伸びない、肩背の痛みで薬が効かない場合にも有効です。
壮年で咳血や吐血が止まらない場合、頭面に長年治らない瘡がある場合、急性の喘満や中毒症状、瘰癧や癭瘤の形成前にも用います。
耳鳴りや盲目も血実がなければ効きません。
刺してはいけない場合も《刺血絡正誤》《医事啓源》に記されています。
②手背刺浅
手背の絡を刺します。
刺法は尺沢穴の場合と同じです。
主な効能は、眼の赤みや腫れ、歯痛、各種癇症、感情の変動が激しい者、妊婦のつわりなどです。
③膕中刺法
膕中を刺す場合、患者は直立で両脚を伸ばし力を入れます。
血結のある箇所を確認し、膝上下を緊縛して血脈を張らせて刺します。
腓腹筋上は座位で脚を伸ばして刺すようにします。
ここは大きな絡が通る場所で血液が滞りやすいため、刺して渋血を取り除きます。
ただし足背の動脈はむやみに刺してはいけません。
主な効能は、腰や股の痛み、歩行困難、痘瘡の熱毒、月経異常、足の熱感、中暑、皮膚の腫れや膿瘍です。
④少陽刺法
示指の根元を糸で緊縛し、血を末端に集めます。
三稜鍼で浅く刺します。
主な効能は、扁桃腺炎や頭面に腫物が出る場合、驚癇や卒倒による意識障害です。
⑤大敦刺法
大敦穴の瀉血は少陽穴と同じ手順です。
主な効能は、疝気、脚気による腹痛、発作時の発汗、睾丸の腫れや疼痛、視力障害、疳瘡の強い痛みです。
⑥額刺法
額の血絡は正額に現れ、項後や目の両角にも広がります。
施術時は助手に首を緊縛させ、手を組ませて安静にします。
刺鍼は助手と呼吸のタイミングを合わせ、絡脈が張ったら瞬間的に廻転刺します。
主な効能は、頭痛や高熱による譫妄、感情の変動、赤眼の疼痛です。
目の角に絡がある場合は微刺します。
血実や絡が起きない場合は刺してはいけません。
瞼が爛れている場合は抓鍼法(瞼裏を刺す)を用います。
⑦鼻中刺法
三稜鍼で鼻中に約1寸5分入れて弾き血を出します。
虚弱な人には行わず、眩暈に注意します。
主な効能は、赤眼や額の腫れ、脳に痛みが連なる場合です。
⑧舌下刺法
舌下の左右にある金津玉液を挟む絡に血結があれば刺します。
舌を屈して軽く刺し、出血が止まらない場合は口に酢を含ませてうがいさせます。
主な効能は、咽頭の腫れ、舌瘡、木舌、言語障害、脈が絶える場合の蘇生です。
⑨陰茎刺浅
糸で陰茎根部を緊縛し、絡脈が張った部分を刺します。
主な効能は、疳瘡による腫れや痛み、陰茎の異常な腫れです。
⑩歯鞭刺法
歯根や腫れた歯茎を軽く刺して悪血を出します。
甚だしい場合は黒い血が出ることもあります。
主な効能は、歯茎の腫れや痛み、悪臭、歯痛、虫歯による強い痛みです。
以上は《刺血絡正誤》《医事啓源》の伝承であり、著者(柳谷)の経験にも基づいています。
《方輿輗》には痧病、つまり瀉血を要する症候群に対して「頭頂心、百会、印堂、両太陽、喉中両方、舌下両方、両手十指頭、両腕(尺沢)、両足十指頭、両膝(膕中)」から瀉血すると記されています。
1.玉法(吸玉・吸角法)
結のある部分に対して吸玉や吸角を用いる方法です。
鈹鍼(ヒ鍼)や三稜鍼で患部を軽く刺し、破って綿や樟脳を吸玉の中に入れます。
火を用いて吸玉を患部に置くと、火気によって血を吸い上げることができます。
血が止まったかどうかを確認しながら、吸玉を外します。
毒や結が皮膚の下に隠れている場合、最初から鍼を刺さず、まず吸玉を使うことで表に浮かび出させます。
この方法は日本だけでなく、中国やサイゴン、フランスでも行われています。
サイゴンでは竹の吸角、中国では火管や打火管、フランスではガラス製の吸角が用いられています。
現在では、減圧機能を持つ吸角器もさまざま開発され、市場に出ています。
2.蜞鍼
蜞鍼とは、ヒルを使って悪血を吸い取る方法です。
吸玉と同じく瀉血の効果が期待でき、肩こり、眼の疾患、痔核、鬱滞などに用いられます。
《蜞鍼治要》や丹波雅忠の《医略抄》では、癌腫の毒を吸う目的で用いることも記されています。
古くから行われ、現在でも地方で実施されています。
6.大鍼
1.鍼の形
大鍼とは、太く長い鍼のことです。
《霊枢、九鍼十二原》には「大鍼は長さ4寸、尖はやや丸く微かに鋒がある」と記されています。
《古今医統》では「火鍼、燔鍼」とも呼ばれています。
現代では銀や鉄で作られることが多く、太さはマッチやつまようじ程度、長さは釘2寸5分ほどが一般的です。
中国や朝鮮では銀製が多く、日本では鉄製が多いです。
フランスやドイツでは短く細い大鍼が用いられます。
鍼尖の形状は、中国・朝鮮ではスリオロシ形、日本ではやや丸みを帯びています。
鍼柄も国によって異なり、中国では二条の細線を巻いた巻軸式、日本や朝鮮では彫刻付きで扱いやすくしています。
用途によって普通の大鍼と火鍼に分かれます。
火鍼は加熱して使用するため、ハンダ付けができない点が特徴です。
2.実技
大鍼を刺す前に、体温程度まで温めることが大切です。
湯の中で温めるか、鞣し革で摩擦して温めます。
刺す際は押手の拇指頭の爪を刺点に置き、示指や他の指で補助します。
鍼尖は爪の沿うように構え、病人には静かに呼吸させます。
刺す瞬間、押手と刺手を同時に下圧します。
鍼尖がわずかでも先に出ると痛みを感じます。
下圧後、刺手を上げずに押手だけ上げると、皮膚の弾力で鍼が刺さる仕組みです。
この操作を3~5回程度繰り返します。
浅く刺す場合は弱く、深く刺す場合は強く下圧します。
刺すのではなく、刺させる気持ちで行うと無痛で刺入できます。
フランスやドイツでも同様の方法で行います。
昔は大鍼を火で焼く火鍼も使われましたが、現在はほとんど使用されず危険です。
3.応用
大鍼は、水腫や腔水症など、水の滞りがある症状に用いられます。
中国、朝鮮、日本では長さ4寸のものを使用し、刺入後に鍼を操作するため長めです。
フランスやドイツでは留置鍼として使うため、全長5分~7分ほどの短めが多く用いられます。
手技の方法に応じて、長さや形状が異なるのです。
参考
1.火鍼
火鍼とは、鍼を高温で焼いてから刺す治療法のことです。
焼き鍼、燔鍼、煨鍼、焼鍼などとも呼ばれます。
古い書物には、油と灯心を使って強い火で鍼を真っ赤になるまで焼くと記されています。
中途半端に赤くならない状態で使うと、体を傷つけるだけで効果が出ないとされています。
著者は約30年前に、実際にこの技術を行う鍼灸師の施術を見た経験があります。
その際には、大きな鍼全体が灼熱し、表面から粉が落ちるほどまで焼く必要があると説明されていました。
真っ赤に焼けた鍼は、柄を布で包み、冷めないうちに決めた深さまで一気に刺します。
このとき、浅すぎても深すぎてもいけません。
狙った病変部に正確に当てなければ、かえって害になるとされています。
古典では、腫れや毒、冷えによるしこり、関節や筋肉が硬くなった症状などに使うとされています。
また、膿がたまったできものや、長く続くしこりに用いられた例もあります。
いずれの場合も、病巣を越えて深く刺してはいけないとされています。
2.温針
温針とは、鍼を刺したあと、その鍼に温熱を加える方法です。
古い文献では、中国楚地方の方法とされています。
鍼を刺したあと、鍼の上に艾をのせて温めると記されています。
現在使われている「灸頭針」は、この温針の一種です。
灸頭針は、見た目は普通の鍼ですが、鍼柄が熱に耐えられる構造になっています。
通常の鍼は、柄の部分が熱で壊れてしまうため、温針には向きません。
温針は体を温め、血の巡りを良くする目的で使われます。
臨床では、太さ3~4番、長さ3~6寸ほどの鍼が使いやすいとされています。
腰やお腹、手足など、幅広い部位に用いられます。
とくに冷えによる腹部の不調や腰の不調に対して、腎兪穴や志室穴に温針をすると、お腹まで温かくなることがあります。
腰から下の冷えがやわらぐこともあります。
骨盤内の臓器に関わる不調にも、よく用いられる治療法です。
7.長鍼(古今医統にいう跳鍼)
1.鍼の形
古い医学書には、長鍼は長さ七寸で、先が鋭く、鍼の体が薄いと記されています。
長鍼とは文字どおり長い鍼のことで、古典では七寸が正式な長さとされていました。
現在、実際の臨床で使われている長鍼は三寸から五寸程度のものが多く、この長さで十分対応できる場合がほとんどです。
押して刺す方法を重視した坂井梅軒は、経絡に沿って斜めに刺すため長鍼を用いました。
近年では大久保適斉が五寸程度までの長鍼を使っていました。
これは深い部分の自律神経や内臓を意識して刺していたためです。
その流れをくむ治療家は、長鍼を使いこなす人が多くいました。
古典にある「鋒利身薄」という表現は、鍼が扁平であることを意味します。
江戸時代の実物の長鍼も、実際に平たい形をしていました。
しかし現在は、丸い鍼が一般的に使われています。
長鍼は管を使わずに刺す方法が基本となるため、鍼先は非常に鋭利である必要があります。
松葉よりもさらに細く尖った、柳の葉のような形が適しているとされます。
刺し方としては、押して入れる方法が古典的な形の長鍼には向いています。
2.実技
まず刺す場所を決め、患者さんにはできるだけ楽な姿勢を取ってもらいます。
呼吸は自然に行ってもらい、体のどこにも力が入らないようにします。
術者は腕や脚に余分な力が入っていないかを確認します。
力が入っている部位があれば、患者さんに声をかけて力を抜いてもらいます。
次に術者は姿勢を整え、丹田に意識を置いて集中します。
爪で刺す場所を軽く押し、体の反応や気の動きを感じ取ります。
呼吸の流れを見ながら、補法か瀉法に応じて、そっと押し入れるか、撚りながら皮膚を通します。
鍼の長さが四寸から五寸程度であれば、鍼柄を持って刺すことができます。
五寸以上の場合は、鍼の体を持って刺すこともあります。
押す手と刺す手を連動させながら刺入する方法もあります。
昔はこの動きを「息づく」と呼んでいました。
坂井梅軒の押刺法では、皮膚をつまみ上げて刺す方法や、鍼先を押し当てて入れる方法が用いられました。
目的の深さまで刺したあと、患者さん自身に体を動かしてもらうこともあります。
また、術者が体を動かす場合もあります。
長鍼は多くの場合、銀や鉄で作られており、斜めや横向きに刺すのが一般的です。
3.応用
①腸の痛みや下痢
腸の差し込むような痛みや下痢には、第三から第四腰椎の外側に三寸から四寸ほど、やや外向きに刺します。
②胃や肝臓の不調、尿の出をよくする場合
第二から第三腰椎の外側に二寸から三寸刺し、太陽神経叢に反射的な刺激を与えます。
③膀胱や子宮の不調、痔、便秘
第四腰椎の外側と仙骨の間に二寸から四寸刺します。
④坐骨神経痛や脚の後ろ側の痛み
坐骨結節と太ももの付け根の間に三寸から五寸刺します。
また、第五腰椎の下外側で腸骨の縁に沿って三寸から五寸、内下方向に刺し、脚に響きを与える方法もあります。
ふくらはぎの承山穴に三寸から四寸、上向きに刺し、膝の曲げ伸ばしを行う方法もあります。
⑤強い肩こり
三寸前後の鍼を使い、こりを目標に素早く刺して抜きます。
こりを貫くように刺す方法や、肩の筋肉の前縁から奥に向けて四寸前後刺す方法があります。
この場合、施術後には必ず周囲や手足にやさしい刺激を加えます。
これを行わないと、かえってこりが強くなることがあります。
⑥長鍼を用いた温鍼
体幹、とくに腰やお腹に二寸から三寸の鍼を立てて置き、その鍼柄に艾をのせて温めます。
この方法は大正時代から行われています。
⑦卵巣嚢腫
患者さんを横向きに寝かせ、腰部の反応点に三寸から五寸刺します。
十分に鍼を動かし、刺激を与えます。
ただし、お腹を触って非常に硬い場合は刺しません。
⑧腹痛や腹部の不調
背骨の両脇にある反応点を探し、二寸から四寸まっすぐに刺します。
お腹の中に響きを感じるところまで刺すと効果が高いとされています。
響きが出ない場合は、効果が弱いと考えられています。
このほか、昔の流派の中には、長鍼を主に用いるものがいくつもありました。
体格が大きく、肥満のある方では、どうしても長鍼が必要になる場合があります。
8.員利鍼(露鍼)
1.鍼形
員利鍼は古い医学書に記載されている鍼の一種です。
長さは約1寸6分で太さは細く先が丸みを帯びつつ鋭い形をしています。
古い文献には当時の医師がよく使っていたと記されています。
員利鍼を露鍼と呼ぶのは鍼の持ち手の部分が露のしずくのように丸く作られているためです。
一般的な毫鍼との違いは持ち手の形が異なることと鍼の中ほどがやや太く作られている点です。
江戸時代以降の鍼師が用いた九鍼の形式もこのような構造でした。
持ち手が丸くなっていることで指の力がどの角度から加わっても鍼が自然に刺したい方向へ進みやすい利点があります。
2.実技
員利鍼は鍼の途中がやや太いため一般的な毫鍼よりも曲がりにくく比較的しっかりしています。
そのため扱いやすい反面途中で刺しにくく感じることがある点を理解しておく必要があります。
この鍼を得意とした人物として葦原検校が知られています。
その著書には当時すでにこの鍼の技術があまり行われなくなっていたことが記されています。
実際の操作では鍼を軽く皮膚に当てて浅く刺しては引き上げ再び刺しては引き上げることを繰り返します。
その過程で鍼穴をゆるめ前後左右や深さを調整しながら自由に動かします。
古い記述では気の伝わり方が脈の動きのように感じられたり体の遠くまで響く感覚があると表現されています。
この方法により体の滞りを取り整えることができるとされていました。
員利鍼は体の状態に応じて整える目的にも余分なものを抜く目的にも使われていました。
現在の日本ではこの形の鍼を製造販売しているところはほとんどありません。
そのため代わりに弾力のある別の鍼を用いることがありますが構造が異なるため作用も多少異なります。
3.応用
古い医学書では員利鍼は急な痛みやしびれ腫れなどに用いると記されています。
体のバランスを整え滞った流れを改善する目的で使われていました。
構造上は特に余分な緊張や滞りを取り除く目的に向いていると考えられます。
そのため神経痛やけいれんなどに適するとされていました。
①活の鍼
特定の反応点を強めに刺激して用いるとされています。
②中風
手足や肩背部などを中心に浅く多く刺激するとされています。
③腫物
硬くなっている部分を見つけて多く刺激し滞りを逃がすと自然に軽快するとされていました。
④口中歯痛
頬の内側を刺激して血の巡りを促す方法が記されています。
⑤筋痛
痛みの周囲を繰り返し刺激することで緊張が散じて和らぐとされています。
⑥肝症
気の滞りから起こると考えられた症状に対し肩や背中を中心に刺激しその後に反応点を深めに刺激するとされています。
これらは主に余分なものを取り除く目的で使われましたが刺激の強さや方法により体を補う目的にも用いられていました。
9.毫鍼
1)鍼形
毫鍼は古い医学書に、先が蚊や虻の口のように細く鋭く、長さは1寸6分と記されており、これが基本の形とされています。
その構造は次のようになっています。
①鍼柄(軸、竜頭)
鍼柄とは鍼の本体が取り付けられている持ち手の部分のことです。
鍼の根元が差し込まれている細い管の部分で、指で操作するうえで最も重要なところです。
基本では長さ6分、直径5厘とされていますが、現在は必ずしもこの通りには作られていません。
昔は流派ごとに模様や彫刻が施され、形にも違いがありました。
日本や中国、朝鮮、ヨーロッパでもそれぞれ扱いやすさを考えて形や長さが工夫されています。
②鍼脚(脚、鍼根)
鍼脚とは鍼の本体が鍼柄の中に差し込まれて固定されている部分のことです。
通常ははんだで固定され、長さはおよそ4分前後ですが、作り手によって違いがあります。
温かさを加える鍼では、構造上はんだを使わずに曲げて固定されています。
一体構造で作られている鍼には、この鍼脚がないものもあります。
③鍼体(鍼身、穂、鉾、鍼鋒)
鍼体とは先端と根元の間の部分を指します。
この部分のしなやかさは鍼の技術にとって非常に重要です。
見た目が新しくても、太さが均一でなかったり、形がゆがんでいたりすることがあります。
使用前にはよく確認し、必要に応じて研いでから使うことが大切です。
④鍼尖(頭、穂先)
鍼尖とは鍼の一番先の部分です。
鋭く磨かれており、流派や用途によって形に違いがありました。
何度も使ううちに先端は少しずつ摩耗します。
そのため定期的に研いで、常に鋭い状態を保つことが必要です。
2)実技
古い文献には、静かにゆっくり刺し、弱い刺激で長くとどめることで痛みやしびれを和らげると記されています。
管を使う方法が生まれる以前は、毫鍼は主に体を補う目的で使われていました。
ゆっくり撚りながら刺し、静かに抜くことで体の回復力を養う考え方です。
古い鍼の達人も毫鍼は体を補う力が強いと述べています。
毫鍼は気や血の流れを大切にする考え方が広まった後に重視されるようになりました。
実際の操作では、ゆっくり刺してゆっくり抜くことが基本となります。
皮膚への刺激を細かく調整できる点が毫鍼の大きな特徴です。
管を使う方法では皮膚への働きかけが弱くなるため、撚って刺す方法の良さが生きてきます。
押して入れる方法や爪を使う方法も、皮膚を通して体の働きに影響を与える技術です。
3)応用
現在、日本の鍼治療で最も多く使われているのがこの毫鍼です。
本来は体を補い整える目的で用いられる鍼です。
しかし長くしたり短くしたりして、さまざまな使い方がされることもあります。
そのため毫鍼だけであらゆる症状に対応しようとするのは無理がある場合もあります。
症状や体の状態をよく考えたうえで使うことが大切だと考えられます。

