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無痕灸について

無痕灸は無瘢痕灸ともいい、皮膚に灸痕を残さない灸のことです。
しかし、次に述べるように、場合によっては皮膚に痕が残ることもあります。
原則として、皮膚に痕を残さないように行うのが無痕灸です。

通常、無痕灸は皮膚の上に生薑、蒜、韮、杏仁の切片(3mm~1cm位、時として2cmに切ったもの)、またはすり潰して泥状にしたもの(泥状の厚さも3mmから1cm位)をのせ、その上で艾を燃やします。
艾の大きさは流儀によって異なりますが、皮膚の上にのせた物品の面積いっぱいにする場合と、あらかじめ大豆大、中指頭大、拇指頭大位の艾炷を作っておき、これを穴処にあてた物品の上にのせて燃焼させる場合があります。

これらの物品は、薄いほど熱の伝わりが早く冷めやすく、厚いほど熱の伝わりは遅いですが冷めにくくなります。
これは、やかんと鉄瓶でお湯を沸かす違いのようなものです。

また、一般に行われている無痕灸には、生薑灸、蒜灸、韮灸、杏仁灸、味噌や塩を台にした味噌灸(お姫様灸ともいいます)、塩灸などがあります。

このほか、名称は灸と呼ばれていても、実際には灸とはいえないものもあります。

また、押灸といって、艾を煙草のように紙で巻いたものの一端に点火し、皮膚の上に布片や紙を置き、その上から点火した巻艾で押さえる方法があります。
これは巻灸、棒灸とも呼ばれ、直径1.5cm~2.5cm位のものが一般的に使われます。

同様に、紙の代わりに金属製の円筒をあらかじめ作り、巻灸のように用いることもあり、これも押灸または棒灸と呼ばれます。

温灸器と呼ばれる容器に艾や線香のような可燃性の燃料を入れて燃やし、布片を介して皮膚に熱を与える方法もあります。
温灸器の種類は、材料や形式の違いから50~60種ほど市販されたことがありますが、原理はすべて同じです。

水灸といって、水で湿らせた日本紙を十数枚重ねて皮膚の上に置き、その上に艾炷をのせて行う方法もあります。
艾の大きさは目的によって決め、大きいものでは手掌大にすることもあります。
この場合は、粗製の温灸艾を用います。
湿らせた日本紙の代わりに、食塩水を含ませたガーゼを使うこともあり、これを活塩灸と名づけた人もいましたが、内容は同じものです。

以上は艾を使用する方法ですが、艾をまったく使用せず、名称だけを灸と呼ぶものもあります。

1.漆灸

これは2方法あります。

①生漆10滴、樟脳油10滴、ヒマシ油適宜をよく混ぜ、艾に浸して泥状にし、箸先などで穴処に点じる方法です。

②乾漆10匁、明礬10匁、樟脳5匁、艾適宜を粉末にし、黄柏の煎汁を混ぜて艾に浸し、小さな棒で穴処に点じる方法です。

2.水灸

これには3方法あります。

①竜脳1匁、薄荷脳2匁、酒精適宜を混ぜ、筆軸または箸で灸点部に塗布します。

②磠砂精1匁、白礬1匁、樟脳2匁を混和して密閉保存し、筆軸または箸で灸部に塗布します。

③グリセリン50.0gr、硝酸20.0gr、竜脳30.0grを混和溶解し、細い棒で灸点部に塗布します。

3.墨灸

これには2方法あります。

まず、黄柏5匁と水1合を混ぜ、弱火で煎じて5勺とし、これで和墨をすって濃い液を作ります。
これを黄柏和墨といいます。

①黄柏和墨5勺、麝香1匁、竜脳2匁、米の粉末2匁をよく混ぜ、灸点に塗ります。

②麝香1匁、竜脳1匁、煤煙適宜、ヒマシ油適宜をよく混ぜて艾に浸し、小豆大に丸めて扁平にし、灸点部位に置いて、その上から施灸します。

4.紅灸

これは薬用紅を灸点部位に塗布するだけの方法です。

5.油灸

一文銭(文銭)を皮膚の穴の上に置き、灯心に油を浸したものの一端に点火し、文銭の孔から現れている皮膚につけて焼きます。
これは無痕灸とはいえず、踏み抜きの局所や目ぼし、肩部の小丘陰状のものを焼く際に用いられました。


以上は後藤道雄博士の『ヘッド氏帯の臨床的応用と鍼灸術』よりの引用です。
また、艾に他の物質を混ぜて普通灸のように用いる方法もあります。
『本草綱目』には「硫黄灸」と呼ばれるものがあり、硫黄の粉末を艾に混ぜたものです。
これは火熱が強くなります。
同様に、麝香、竜脳、甘草末などを粉にして艾に混ぜて用いることもあり、これらを「薬艾」といいます。


参考文献:柳谷素霊『鍼灸の実技』(昭和三十四年)