鍼灸の実技:第10節 現行刺鍼の手技

鍼灸の実技:序・目次


第10節 現行刺鍼の手技


 刺鍼の手技とは、鍼を皮膚に接触せしめる方法、刺入した鍼を進退動揺させる方法、或はその方向を変換したり、又は別に刺鍼したり、刺激を加えたりする技術の方法をいう。古来、手技は流派によって異なり、処により、歴史によって異ったものである。
 古書には四法、八法、十円の鍼法、九変に応ずる鍼法、十二経に応ずる鍼法、五臓に応ずる鍼法、繆刺巨刺などの手技が記載されている。又我国において異常に発達した『杉山真伝流』には《九十余術》所謂《百術鍼法》という程精細に分類されている程である。現今の20種くらいの刺鍼の手技は大抵この『杉山真伝流』の承伝であるのを先人が伝えのこしたものである。
 また、近代鍼灸教科書の編著者によって手技名の呼称を異にするものもあり。且つ、登載手技の種類にも異同があるが、ここには、それらの異同を眺めながら、ごく普通に用いられているものについてのべることにする。

1.単刺術
 単刺法ともいう、鍼尖を目的の深さまて刺入し、動揺進退することなく、そのまま抜鍼する技術であって、普通弱刺激を与える目的に使う手技とされる。

2.雀啄術
 刺動法、刺衝法ともいわれることがあるが、手技の本来の意味から見れば、雀啄術というのが最も良い。これは『杉山真伝流』所伝のものである。この手技は、刺し入れる時、又は一定の深度まで刺入してある鍼を、その名の示すように、雀が餌を啄むように、鍼を上下に細かく進退させる手技であって、小鳥の餌を啄む有り様のようにするのである。小鳥は数回運続的に餌を啄み、小休息の後再び味むものである。従って、刺動法、刺衝法の言葉からうける印象のごとく休みなく進退して刺激を与えるということではないということに注意すべきである。この手技は弱い刺激にも、強い刺激にも用いられる。
 鍼を進退する時は鍼柄を撮んで行う時と、鍼体を撮んで行う時とがあるが、鍼体を撮んで行う時は押手の示指に刺手の中指を着けて行うと調子よく施すことができる。

3.間歇術
 間代法ともいう。やはり『杉山真伝流』所伝の手技である。方法は鍼を一定の深部まで一端刺入し、それから、適宜の所まて抜き上げ(退法)暫時動揺することなく、そのままにしておき、間を置いたなら、また前の深度まで鍼尖を進め下し、一定の時間留めておく、このような進退の間に間を置くこと、恰も間歇温泉の噴出に間があるが如くする手技である。強刺激となり、血管拡張、筋肉弛緩、神経の興奮性を鎮制する際に行う手技とされている。

4.屋漏術
 歇啄術ともいう、やはり『杉山真伝流』所伝の手技である。この手技の方法には2方法あげられている。

1)第1法
 刺入せる鍼体の三分の一進めては暫時とどめ、次の三分の一刺入しては暫時とどめ、最後に残りの三分の一刺入して同様暫時とどめ、抜鍼に際しでも、三分の一ずつ抜く方法である。

2)第2法
 鍼体の三分の一刺入して雀啄術を行い、次に残れる鍼体の三分の一刺入しては雀啄術を行い、また、残れる鍼体の三分の一刺入しては雀啄術を行うというふうに鍼を進めるのである。数回行うのであるが、理窟からいって、いつでも残りの三分の二は残る勘定であるが、実際はだんだん差が少くなるので、数回同じことをくり返して、抜除するのである。退針の際も、刺入時と同じように、抜除する手技である。この第2法は故吉田弘道氏の方法である。使用は間歇術を行う時と同じ目的の時に使う。

5.振顫術
 震顫術とも書く、又竜指術とか細振術ともいう。手技の方法は一定深度まで刺入した鍼体又鍼柄を刺手の拇指と示指で撮み、刺手を振顫させることによって、鍼を振顫させる手技である。鍼体を撮む時は押手の拇指と示指に刺手の拇指と示指を着けるようにすれば、調子よく振顫ができる。また鍼柄を撮んで振顫すると、弱い振顫を与えることができる。又一法として、刺入中の鍼の鍼柄を鍼管で叩打したり、指で弾いたりする(弾振、弾爪ともいう)こともある。

6.置鍼術
 留置術ともいう。古法にもあり、杉山真伝流にもある手技である。手技の方法は鍼を一本又は数本身体に刺して、暫時の間、そのままその鍼を留置しておく手技である。一本のみの刺鍼時には押手は必ず離さぬのが常であるが、数本、又は十数本刺入する時は、一々離さぬわけに行かないから、このような時は、刺入中の鍼に対し、充分注意して、目を離してはならぬ、ということは、生体の作用で、鍼が吸い込まれたり、又はぬけ出したりすることがあるからである。この方法は今では制止作用を与うるときに使われる。が『霊枢、管鍼篇』に《斉刺(2本刺入する)揚刺(5本刺入する)》などがあって、斉刺は《寒気の小深なるものを治す》揚刺は《寒気の博大なるものを治す》と記載してある。『鍼灸要法指南』には《針を何本も刺して置き、一方より一本あて抜くのである。多くは寒邪の甚だしく沈んでいるに用うることあり、好んでこれを用うるべからず》と記載されているが、日本でも、欧州でも現今は盛んに用いられている。

7.旋撚術
 『杉山真伝流』ではこれを《初伝》ともいった。手技の方法は鍼を刺入(進)時又は抜鍼時(退)に左右に旋燃するのであるが、一廻転させぬことである。最も良いのは半廻転させることである。中等度の刺激を与える時に使用するのであるが、旋撚の速度、刺入鍼の深度、旋撚時間の長短によって、興奮法とも制止法ともなる。

8.廻旋術
 廻旋鍼法とも、円旋術ともいう、『杉山真伝流』所伝のものである。これにも手技の方法に2種ある。

1)第1法
 鍼を刺入する際(進)右又は左の一方向に鍼を廻しながら刺入し、抜鍼時(退)には、刺入時の反対に廻して抜く方法である。

2)第2法
 鍼を一定の深度まで、単刺術又は旋撚法で刺入し、目的の深度まで達したならば、そこで、鍼を右又は左の一方に廻旋する方法である。

 以上2法は皮膚又は皮下、筋膜、筋組織を針で巻きつけることになる。従って、第2の方法の時などは針体を撮む押手の左右圧をだんだん強くしないと、刺手で廻した鍼が元の方に戻ることがある。また、抜鍼時は充分もとに戻して、皮膚、筋肉を緩めてから抜かないと、筋肉が鍼にまといついて抜けないことがある。使用の場合は強制激を与える時である。
 この手技は、ひどく緊張した筋肉、神経を伸展する目的て使われることがある。即ち異常緊張の筋、神経にたいして、廻旋術を行って、針にそれらを巻きつかせて置いたまま、鍼を引っ張り上げるのである。多く坐骨神経痛、甚だしく緊張せる肩コリの筋繊維などに使用することがある。が慎重に注意して行わないと組織を損傷する憂がある。

9.乱鍼術
 乱刺術、乱刺法、強直法などという。手技の方法は以上のべた数種の手技を併用するものである。従って、強刺激を与える時に用う。

10.副刺激法
 この手技を奥村三策氏は《第九手技》といい、吉田弘道氏は《気拍術》という。これも『杉山真伝流』所載の手技である。
 手技の方法は、刺入した鍼の周囲の皮膚面に鍼管又は指頭で、弾き、叩き、押え、顫わすなどして、刺激を添えることをいう。
 強刺激を与える目的の場合、又は抜鍼困難(渋鍼)時に使用する。

11.示指打法
 奥村三策氏は第十手技という。手技の方法は鍼を適宜の深さに刺入してから、鍼管を刺入しである鍼に挿入し、鍼管の上端に示指で数十回弾入のように叩打する方法である。強刺激を与える時、又は抜鍼困難時に用うる。

12.随鍼術
 『杉山真伝流』所伝のもので、吉田弘道氏の方法である。その方法は術者及び患者は安静に呼吸息を共にして、呼息時に鍼を刺入し、吸息時には其の進入を止め、これを反覆して、目的の深部に至ったなら抜除するのであるが、抜除に際しでも同じく呼吸に随って抜去するのである。使用の場合は、血管を拡張し、筋肉を弛緩させる時である。

13.内調術
 吉田弘道氏方(杉山真伝流所伝)であって、手技の方法に刺入した鍼の鍼柄を押手の拇指と示指で撮み、刺手に鍼管を持って鍼柄を叩打し、振顫を与うるものである。血管、筋肉を収縮させるに使用す。

14.細指術
 吉田弘道氏方(杉山真伝流所伝である)手技の方法は鍼管に鍼を収め、患部に之をあてて、管頭にある鍼柄を刺手の指頭で細小の度に数多叩打(即ち弾入を頻々と行う)し、其の鍼柄の没入せんとする時、更にこれを振出して反覆これを行うのである。使用の場合は制止を目的とする時である。

15.管散術
 吉田弘道氏方である。知覚過敏で、直ちに鍼尖を皮膚に加うることが出来ないような時、鍼管のみで、手術部に当て刺手の示指て軽軟に管頭を頻々と叩打する方法である。使用の場合は知覚過敏の時、『杉山真伝流』では重みのある、管壁の厚い鍼管を使用したものである。

16.鍼尖転移法
 鍼尖移動法ともいう。奥村三策氏は《第七手技》という。手技の方法は鍼尖を皮下に留めて、鍼を右手に待ったまま、左右の手を同時に(刺手、押手ともに)刺鍼部の皮膚を上下、左右又は輪状に滑動せしめ、錯尖をして、皮下に掻破様の刺激を与えるものである。使用の場合は皮下を刺敵して、反射機能を旺盛にし、専ら強刺激を与える時に用いる。

17.刺鍼転向法
 奥村三策氏は第八手技ともいう、鍼の方向転換をいうのである。手技の方法は一端刺入した鍼を皮膚から抜除せずに刺入の向きを換える時に行う手技であって、刺入の鍼が深部にあるならば、鍼尖を皮下まで抜き上げて、刺入せんとする方向に向きをかえ徐々に刺入するのである。斜鍼を直鍼又は横鍼に向きをかえる時にこの方を用いる。制止作用を与えることになる。
 これらのほか、奥村三策氏は直鍼(第一手技鉛直鍼法といって、皮膚に垂直に刺入する鍼)斜鍼(第二手技傾斜鍼法ともいい、皮膚に斜めになるように刺入する鍼)、横鍼(第三手技平鍼ともいい、皮下に沿うて鍼を平に刺入する鍼)を刺鍼の手技と称している。
 また、小児鍼をもこの手技に加える学者もある。

註 小児鍼
 関西では古くから小児疳虫ばりと称する鍼法が、よく行われていた。これに用うる鍼は兎鍼と称し、刃ばり、扇ばり、三稜鍼の如き皮膚を少しく破り血を滲ませる鍼や、集合鍼と称し、毫鍼を一本の軸に植えて、これで皮膚を接触刺敵したり、引き掻いたりして刺激を与える鍼がある。その後、機械的刺激を与えるために、種々な形の鍼と称する器具を考案発売されている。車鍼、孫の手鍼、ほうき鍼などがこれである。
 これを要するに、①血を滲ませる鍼法と、②皮膚に軽軟な接触刺激を与えるのを目的とする鍼に大別出来る。前者は瀉法的の鍼であり、後者は補法的の鍼である。藤井秀二博士の、a.双管小児鍼、b.無管的小児鍼は後者に属する。
 小児鍼の効用は小児疾患の全部に応用すると見ることができる。即ち、小児消化不良症、青便、小児疳虫、小児急疳、小児神経衰弱、夜泣き、夜驚症、不眠症、遺尿症、異嗜症、発育不全、乳児の強壮療法等に用いた。 藤井秀二博士によれば、小児鍼の治効理由は皮膚に与えた接触刺激が、自律神経に反射し、血液生産機関である網内皮系細胞に刺激が伝わり、血液上に疾病治療に役立ち種々の血液成分、血清成分が増多するばかりでなく、全身組織細胞を賦活し、変調療法(Umstimmungs therapie)として働くので効果があると、その研究業績を発表している(『小児鍼の研究』)。

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