肩の痛み(五十肩など)

はじめに


 鍼灸の外来診療でもっとも多い疾患の一つが肩の痛み(五十肩)です。肉体に鍼を刺して直接患部を正常に戻すという治療は速やかな効果があり、痛みで腕を上げることができない方でも、治療直後に普通に動かせるようになることが頻繁にあります。しかし、ご注意ください。鍼灸治療が速やかに効果をあらわすものは、筋骨格由来の機械的な肩痛です。中には重篤な疾患が隠れていることがあります。


 肩に痛みを持っていても、肩に問題があるとは限りません。肩に痛みが出る可能性のある疾患はどんなものがあるのでしょうか。まずは肩に問題がないもの、関連痛と呼ばれるものから見ていきましょう。


関連痛


○頚椎疾患

○胸部障害 (心筋梗塞・狭心症・心膜炎・大動脈解離・肺塞栓・気胸・肺炎・胸膜炎・パンコースト腫瘍・中皮腫・縦隔腫瘍・食道疾患

○腹部骨盤障害 (異所性妊娠・脾臓梗塞・脾臓破裂・肝臓の血腫または膿瘍・横隔膜下膿瘍・胆嚢炎・腹部臓器破裂・動脈瘤・腹腔内出血・動脈炎を含む血管機能不全・静脈血栓症・消化性潰瘍・膵炎・腹部腫瘍・肝/脾湾曲症候群)

○神経障害 (脊髄病変・上腕神経叢疾患・絞扼性ニューロパチー・帯状庖疹)


 これらのように、肩に異常がなくても肩に痛みを感じる疾患は結構あります。しかも命にかかわるものが多いので注意が必要です。もし発熱や悪寒、などがあれば、感染性の疾患を疑います。絶えず続く進行性の疼痛があれば、感染や関連痛、腫瘍。腋の下に痛みがあれば、縦隔由来の関連痛。夜間痛があれば骨折や大きな断裂、それに体重減少もあれば腫瘍や感染を疑います。しびれや刺痛、灼熱感、腕の力が落ちている感覚があれば、神経根障害やニューロパチー、ミエロパチー。呼吸困難があれば心疾患(心虚血)や肺疾患を疑います。


 肩以外の症状にも気を配り、原因に思い当たるふしがなく、急に肩の痛みがでたら、早めに診察を受けましょう。とは言っても、肩の痛みのほとんどは肩の関節周囲の問題であり、関連痛の割合はとても低いので、心配し過ぎないようにしましょう。


一次性疼痛 (患部に問題がある痛み)


 肩の痛みのほとんどは肩の関節やその周囲に問題があります。そこにはどんな疾患があるのでしょうか。下を見ていきましょう。


○インピンジメント症候群/肩回旋腱板腱炎 (全層断裂、部分断裂を含む)

○石灰化腱炎

○肩回旋腱板断裂

○上腕二頭筋腱炎

○上腕関節不安定

○肩鎖関節症候群

○有痛性肩拘縮症/被膜炎

○肩関節唇断裂

○関節炎 (リウマチ性、結晶性、反応性などを含む)

○関節または軟部組織の感染

○変形性関節症

○リウマチ性多発筋痛

○骨壊死


 などがあります。一次性疼痛の特徴は患部を動かすと痛みが増悪するというものです。もし肩や腕を動かしても痛みに全く影響がなかったら、関連痛を疑いましょう。もし肩をどのように動かしても痛むような場合は、関節炎や有痛性肩拘縮症、被膜炎などを疑い、ある特定の動きにだけ肩痛が出る場合は、腱炎やインピンジメント症候群を疑います。とくに野球やテニスなどを仕事や趣味に持ち、腕を頻繁に上げる動作をする生活を送る人で、頭上に手を伸ばすと痛みがひどくなれば、インピンジメント症候群の蓋然性が高いでしょう。肩が腫れていれば、関節炎や関節内出血、腫瘍やアミロイドーシス。動かすとよくなり静止すると悪化するこわばりがあり、また朝にこわばりが起こり60分以上続くが動かすと改善すれば、リウマチ性多発筋痛や全身関節炎(関節リウマチ)を疑います。肩が絶えずこわばっていれば、また糖尿病も持っていれば有痛性肩拘縮症を疑います。また、手指にしびれ感、時には冷感、蒼白、チアノーゼを持ち、アドソンテスト*が陽性であれば、胸膈出口症候群を疑います。


*アドソンテスト 起立して両腕を体側にそろえて、腕を伸ばして外側に回旋させる。大きく息を吸い込んで、そのまま止めた上体で、頭を患側の肩へ向けると症状が再現できる、または患側橈骨の脈拍が減弱すれば陽性。


五十肩


 肩痛が上にあげたような疾患にあてはまらず、特に思い当たる原因もなく、肩関節の可動域が悪くなっているものであれば、五十肩と呼ばれます。30歳代から80歳代の幅広い年齢で罹患しますが、とりわけ50歳前後に好発します。また肩関節周囲炎とも呼ばれています。症状によって急性期と慢性期の2病期に分けられます。急性期は症状の増悪期で激しい肩痛、運動時痛、上肢への放散痛があり、時には夜間痛もあります。慢性期は自発痛は軽減し、関節拘縮が生じ、上肢の挙上、内・外旋運動制限が強くなります。



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