腰痛

はじめに


 鍼灸の外来診療でもっとも多い疾患の一つが腰痛です。肉体に鍼を刺して直接患部を正常に戻すという治療は速やかな効果があり、ぎっくり腰で立てなくなってしまった方でも、普通に歩いて帰ることが頻繁にあります。しかし、ご注意ください。鍼灸治療が速やかに効果をあらわす腰痛は、筋骨格由来の機械的な腰痛です。中には重篤な疾患が隠れていることがあります。


 とは言っても、99%の腰痛は機械的な腰痛であり、重篤な腰痛は1%未満であると言われています。「ひづめの音を聞いたら馬だと思え、シマウマだと思うな」ということわざがあります。腰痛の時に重篤な疾患を過剰に心配する必要はありません。ただもしもの時のために、それらを確認していきましょう。腰痛をひき起こす疾患にはどんなものがあるのでしょうか。ざっと下を見てみましょう。


○新生物(癌・腫瘍・骨髄腫)

○炎症性関節炎(骨関節炎・リウマチ性疾患)

○感染症(骨髓炎・椎間板炎・硬膜外膿瘍)

○骨のパジェット病

●大動脈瘤

●腎疾患(腎石症・腎盂腎炎・腎周囲膿瘍)

●消化管疾患(膵炎・胆のう炎・穿孔性消化性潰瘍)

●尿生殖器疾患(子宮内膜症・慢性骨盤内炎症性疾患・前立腺炎)

●内臓破裂


 単に腰痛と言ってもさまざまな病気が隠れていることがあります。どんな場合にそれらの病気が疑われるのでしょうか。


 新生物は、活動している時よりも、安静にしている時、睡眠時により痛みがひどくなる。今までにない痛みであり、一ヶ月以上改善の傾向が見られない。体重が理由もなく減ってきている。腰痛とともに手足の筋力が低下してきた。癌の既往歴がある。または家族に癌の患者がいる。50歳以上である。というような時に疑われます。


 また、発熱がある場合は炎症性の疾患が隠れている可能性があります。また随伴症状に、悪心や嘔吐、腹痛、などがある場合には内臓に問題がある可能性があり、排尿困難などがあれば、腎臓など泌尿器系の問題、腰痛が月経周期に関連していれば、子宮内膜症などの生殖器系の問題が疑われます。また血圧の低下を伴う急激な腰痛は大動脈瘤の破裂が疑われます。


 また明らかに、転倒や落下など強い衝撃を受けた後に発症した腰痛は、骨折や臓器の損傷が疑われます。骨折は骨を軽くたたくと痛みが走ります(叩打痛)。


 また下腿や会陰部の運動・感覚異常や排便・排尿に異常があらわれている時は馬尾症候群が疑われます。これは早期に治療すれば治癒可能ですが、手遅れになるとずっと排便・排尿に問題を抱えることになり、快適に社会生活をおくることが難しくなります。


 簡単ですが、これらの身体からの信号に注意し、もしもそれらがあらわれた場合は、早めに受診して治しましょう。


機械的腰痛


 もっとも一般的な腰痛は筋骨格系の過労から起こります(約80%)。これは鍼灸の単独治療でも非常に有効的な腰痛です。しかし他の要因も無視することはできません。ざっと見ていきましょう。


○腰部・仙骨部神経根圧迫(椎間板ヘルニア・馬尾症候群・坐骨神経痛・脊柱管狭窄症・脊椎すべり症)

○脊椎骨折・亜脱臼

○関節炎症状(骨関節炎・強直性脊椎炎・リウマチ性疾患)

○仙腸骨関節捻挫・変形性疾患


 膝、足関節、足の指の曲げ伸ばしがうまくいかなくなったり、皮膚の感覚異常が起こった場合は、椎間板ヘルニアなどの神経根の圧迫が疑われます。これは膝蓋腱反射やアキレス腱反射が低下する徴候を見ることで、どこの椎間板にヘルニアがあるか推察することができます。なお、たとえヘルニアがあっても、ヘルニアが腰痛の原因であると言うことはできず、健康な何の症状の無い人でも椎間板にヘルニアが全くない人は36%だけであり、たいていの人はヘルニアを持っています。


 腰痛とともに、臀部から膝、足にかけて放散する痛みを持つ場合、坐骨神経痛と呼びます。L4・5、S1神経根に問題がある場合や、坐骨神経の出入り口にある梨状筋に問題がある場合があります。


 また座位では疼痛がなく、歩きはじめると下肢に痛みがでて、しばらくすると歩けなくなり、少し座って休むと痛みがなくなる、という症状もあると脊柱管狭窄症が疑われます。


 機械的腰痛でも重症の場合があるので、やはり身体からの信号には注意しましょう。